「体験を経験に」(2016年1月発行)

私たちは日常「体験」と「経験」という言葉をほぼ同じ意味で用いています。辞書でもこの2つの言葉を同義として扱っているものもあります。敢えてその違いを取り上げると「体験」は自分自身の身をもって実際に行う意。それに対して「経験」は自分で実際に見たり聞いたりして知識・技術などとして身につける意(大辞林)。あるいは「体験」は自分が身をもって経験すること。また、その経験。「経験」とは人間が外界との相互作用の過程を意識化し自分のものとすること(広辞苑)、とあります。簡単に言えば体験したことを意識化するかどうか、の違いといってもいいかもしれません。
これはちょっとした違いに見えるかもしれませんが、私にはれはとても大きな違いがあるように思います。 というのは「体験」はそれこそ誰でも体験できます。生きていること自体毎日が体験といえます。もちろん意識化されなくても感覚的に身体が感じ取っているものはあるはずです。でもそれを意識化しなければ自分の人生の中で経験として生かすことはできません。また、たとえ同じことを体験するにしても、体験する人が大人か子供かによって、または外界との関わり方、日頃の意識の在り方によって、意識化される内容は量的にも質的にも大きく違ってきます。時にはそのことによってその後の生き方が大きく変わることもあり得ます。つまり経験としてその後の人生に活かせるかどうかは多くの場合当人の意識の在り方によるといってもいいのではないでしょうか。
今、受験生たちは少なくともこの1年、受験勉強というものを体験してきました。その体験を通して、勉強においてわからないところをどうやって解決するか。毎日の生活をどうやって規則的に維持していけばいいのか。弱い自分をどうやってコントロールすればいいのか。頑張った後でのテストの結果がなかなか思うように伸びなかった時のやるせなさ。もちろん今まで思ってもみなかったような成績の伸び。努力は決して裏切らないことの確信。自分の考え方を少し変えるだけで、勉強も家族との関わりも友達とのやり取りも全てうまくいくことも。そして自分に少しずつ自信が持てるようになったことも。自分が自分であり続けることが自分らしく生きることであることの確信も。全てこれらの「体験」から意識化され「経験」として学んできたものです。「経験」を積み重ねてきたのです。
そしていよいよ入試本番です。「入学試験」を体験する時が来ました。そう、これがこの1年の総仕上げです。この体験をどうやって豊かな経験として自分の人生に活かすことができるか。それはいよいよこれからの残された日にちでやらなければならないことです。
受験直前の今まさに孤独に陥っている人はいませんか。不安で落ち着かない人はいませんか。もしそうであればその孤独や不安を大切にしてほしいのです。孤独や不安は自分の体験を経験にする一番の触媒です。そんな時これまでのことを思い出してみてください。あなたは決して一人で入試に立ち向かっているわけではないこと。あなたの周りにはご両親をはじめ様々な方々があなたの健闘を見守っていること。
無事この1年を大過なく受験勉強に専念できたこと。
たくさんの友達に支えられたこと。一人になって考えてみると様々なことが浮かんできます。それは一つの意識化です。経験化です。受験の総仕上げをすると言えば様々な知識を確実なものにすることだけを考えがちですが、実はこの意識化経験化することがとても大切です。何があるかわからない未知に出会うための心の準備をしっかりすることです。どんな時も穏やかに立ち向かえるよう心の準備をしなければなりません。
さあ、受験生の皆さん、感謝の心を携えて、より豊かな「経験」を勝ち取るべく、受験に向かってください。その「経験」をこれからの君たちの人生に大いに活かすために。
(代表 林 政夫)