(2010年1月20日発行「中学受験」)

「中学受験」 代表 林 政夫

「どうして中学入試(あるいは高校入試)をさせるのか」、親の立場からどう考えたらいいのでしょうか。今入試を直前に控えてご両親は「それどころではないわい」と感じておられることでしょう。こんな時期にとんでもないことかも知れませんが、こんな時だからこそちょっとお考え頂きたいと存じます。

確かにどこの学校に合格するかはとても重要なことです。まさにそのことのために受験勉強していると言っても良いわけですから。子ども達は第一志望校へ合格するために塾に通い、やりたい習い事を中断し、遊ぶ時間も削り、苦手な教科も何とか取り組み、時には親子げんかまでしてやってきたこの数年間(或いはこの数ヶ月)。ご両親にとってもこの入試を成功させるためにどれほど心を砕き、時間を割き、労力やエネルギーを注いできたことか。これだけの時間・労力・費用と様々なエネルギーを費やしてきたこの受験。合格させずにいられるか、と思う気持ちは十分理解しているつもりです。

ただここで目を転じてみましょう。大リーガーのイチロー選手、プロゴルファーの石川遼選手、今度プロ野球に入団が決まった花巻東高校の菊池雄星選手。プレーもさることながら彼らに共通するのは彼らの日頃の発言やあり方、言うならば彼らの生き方が実に感心させられるところです。イチロー選手のストイックとまで言える練習ぶり自己管理ぶり。まさに人生を野球に賭けている深さ、一途さがその発言から伺えます。石川選手の何時如何なる時にも前向きな発言がテレビから流れてくるのにいつも感心しているのは私だけではないと思います。試合で思うようなプレーが出来なかった時でも、その直後のインタビューで常に前向きな発言がある彼。何時も気持ちを切り替えて前向きに進もうとする日頃の物事の考え方生き方がそのまま出ていて実にすがすがしい。昨年夏の甲子園を賑わした花巻東高校の菊池雄星選手。彼の発言も実に生き方をわきまえた発想が出ていて感心させられます。ケガをしてこのまま投げたら一生野球が出来ないかも知れないという不安の中、最後となった準決勝で途中登板し投げ抜いた彼。その理由が「みんなのためならたとえこのまま野球が出来なくなっても・・・」と語っていた。大リーグからも誘いがかかっていた選手の発言。普段は学校のトイレ掃除も日課のうちに入っているという。これが今時の高校生かと驚きました。

プレーの前に人間的な成長あり。実はこれはスポーツの世界だけではなくどんな世界にも通用する事ではないでしょうか。特にこれから人生の基礎を創り上げようとする子供達にとって様々な習い事(ピアノ、習字、サッカー、水泳など)は全て人間性を創り上げるためにあるといっても過言ではないと思います。少なくともそのことを通じて様々な試練を乗り越え、また乗り越えるための発想の仕方を学び体験することに依ってしか真の上達はあり得ないのです。

受験もその一つだと思うのです。ここまでの数年間または数ヶ月、学んできたことは日々の授業や勉強への取り組みを通じて実は自分を見つめること、自分を成長させるにはどうしたらいいのか、何が必要なのかを学んでいるのです。これらの一つの集大成が「受験」なのだと思います。そして今まさにその受験に子ども達は向かおうとしています。これまでの受験勉強の日々や受験当日は勿論大切な経験ですが、子ども達の成長に繋がる受験にするためには当日だけではなく、その後の結果の受け止め方、自分の振り返り方がこれからの考え方、生活の仕方にも繋がってほしいと願っています。入試の成否とは別に自分の人生における一つの節目にどう関わっていくのか、どういう態度で臨むのか、その結果をどう受け止めるのか。そこから学び収穫したものは必ずや後々の生き方に影響するはずです。

最後に平成17年春の全国選抜高校野球大会で駒大苫小牧高校の林裕也主将の開会式での宣誓文をご紹介します。中には小学生のリトルリーグ時代から10年近い年月をかけて追い続けてきた甲子園への夢。その高校球児達がようやく手にした甲子園への切符。今まさに勝負に挑もうとするに当たっての宣誓。

「この世に生を受け、十数年生きてきた中で、夢を実現させようとし、一生懸命立ち向かうこと。そこに僕たちの人生があることに気がつきました。夢を追い続けるひたむきな姿が美しく輝いているということを学びました。僕たちのために多くの方々が見守って下さったことも知りました。ここまで成長させていただき、支えて下さったみなさん、ありがとうございます。 今、高校野球って素晴らしいということを実感しながら、感謝と一生懸命を胸に、甲子園という夢の舞台に挑むことをここに宣誓します。」