(2009年4月13日発行「家庭の空気」)
「家庭の空気」
「いつも口を酸っぱくして言っているのにどうして分からないのかしら」「これだけ心配しているのに最近ではむしろ反抗的な態度さえ取るようになってきた…」「こんな考え方、こんな生活の仕方では必ず失敗するはず。そんなことが分かっているのに、だからこんなに口を酸っぱくして言っているのに…」
この状況は多くのお母さん方が直面していることではないでしょうか。どうしてこんな事になってしまうのでしょうか。よくよく考えてみると、子供にどんなことを注意するか、あるいはどんなことを言うかが問題なのではないような気がします。むしろ問題はどう言うか、いやどうやって相手に分かって貰うか、いやどうやってこの当たり前のことを言わなくても分かってもらうか、自然に身につけてもらうか、ではないでしょうか。
子供を育てるのに親の背中を見せるとか、家庭の空気で育てると言うことをお聞きになったことがあると思います。まさに子ども達は親の言うことよりも親のやることを見て育っています。教えなくても親の癖はしっかり子供が受け継いでいます。子供のちょっとした仕草、表情にはっとさせられることがよくあります。まさに言われなくても子供は親のやることをしっかり見ているのです。
例えばこんな事があります。「うちの子供は素直に『はい』と言うことがない」と嘆く方がいらっしゃいます。そういう方に伺ってみる事があります。お母さん、あなたはご自分のお子さんに謝ったことはありますか。本当に心から申し訳ないと謝ったことはありますか。子育ての中で時には失敗して子供に迷惑を掛けたこともあると思います。そんな時お母さんは素直にお子さんに謝りましたか、と。なかなか上手くいっていないことが多いようです。
この場合子供の方も反省する力、自分を高める力が弱まってしまいます。どうしても素直に「あ、ごめんなさい。僕がいけなかった。私が不注意だったの。」とはなりません。これとは逆にお家の中でお父さん、あるいはお母さんがいつも素直に「あ、それは私がいけなかった」といって謝るようであれば、子供は何か指摘されたときには何時でも素直に自分の非を認めることが出来ます。素直に「はい、ごめんなさい」を言うことが出来るのです。
またとても穏やかなご夫婦がいらっしゃいます。もちろんその穏やかさは物腰だけではなく心のあり方が実に穏やかなのです。人と争ったり、人を批判するなどあるのだろうかと思うような。そのようなご家庭の子ども達はいつもニコニコしています。いつも明るくて素直です。親の言うことは進んで守ろうとします。こういう子供は勉強も伸びます。人の言うことを素直に聞いて、素直に実行するからです。
いかがでしょうか。家の空気とはつまりお父さん、お母さんが日頃どんな生活をしているか、どんな生き方をしているか、何を大切にしているか、どんな時に怒るのか、どんな時に泣くのか。人との接し方はどうなのか、いつも明るいのか、笑顔が多いのか、親身に人の話を聞くのか、いつも他の人のことを考えているのか。家の中ではいつも人の優しさ、人から受けたお世話、今日あった嬉しい出来事、出会った素敵な人が話題の中心になっているのか。あるいは抱えている問題の解決方法などなどいつも物事に前向きに関わっているのか。逆にうちの中で話すことは愚痴ばかりなのか、問題点ばかりをあげつらって批判するだけなのか、不平不満が絶えないのか。ご近所のちょっとした話にも、また会社の何気ない出来事を話すにしても、どんな態度で、どんな心の持ち方で話すかによって家庭の空気は変わります。勿論夫婦子供の日頃の関わり方は言うまでもありません。
お父さんお母さんの頭の中で考えていることと、実際の生活の中で行っていることとの間に、ギャップがあればあるほど子育ては上手くいきません。反対に、お父さんお母さんが子ども達と一緒に生活できることの幸せをかみしめながら暮らせたら。子ども達の表情は随分明るく、素直な返事も返ってくることでしょう。
このことは私たち塾で教えるものにとっても同じ事。まさに「自己を高める力」が問われています。いつも自問自答する生き方が問われています。そしてそれを教えてくれるのが子ども達なのです。毎日毎日子供から学ぶ。有り難いことです。