「大学受験、高校受験、そして中学受験」(2013年9月30日発行)

一般的に大学受験・高校受験、そして中学受験はそれぞれその年齢に応じた受験の仕方・課題があり一概に受験と言っても中身は随分異なるように思います。すなわち本人の人間形成と学力の伸長あるいは効率的な受験勉強という2つの異なる要請のそれぞれのウエイトのかけ方が異なると言うことです。誰にも当てはまるわけではありませんが、簡単に言えば次のように言えるかもしれません。

大学受験では受験生はもう自分なりの将来の目標や考えを持ち、受験する大学・学部も決め、後はひたすらその目的を達成するためになされるもの。受験勉強はその目的を達成するために如何に効率的・能率良く取り組むかがポイント。人間形成と言うよりは受験の効率化が大きく問われています。これに対して高校受験は受験生である中3生が自分なりの目標が明確になっているわけでもありません。自分はどんなタイプの人間で何ができて何が苦手なのかなど、そろそろ自分の人生を少し考えないといけない時期にさしかかっている事。多くの場合まだ自分が何者かが分からず迷っている。受験は日頃の受験勉強の中で自分を見つめ、模索する自分探しの場でもあると同時に、そんな自分にあった学校を探してそのための入試に挑戦する。その意味では人間形成的にも受験の効率化にも両方にウエイトをかけなければならないのが高校受験でもあります。それに比べて中学受験では受験することの意味もあまり分からない生徒さんも中にはおり、自分を見つめることがなかなかうまくいかない場合もあります。多くの場合保護者の方が何らかの形で関与しなければうまくいかない受験でもあります。受験のウエイトは効率的に受験勉強することよりも日々の受験勉強をするという生活の中から、人間としての様々な学びを頂くことがより大切な時期であるといえましょう。志望校に合格することもさることながら、それ以上にこの受験を通じて自立するきっかけを掴むことです。勉強の効率化以上に子供の人間的成長が最優先されなければなりません。

大学、高校、中学それぞれの成長過程においての受験ですが、そこに関わるご両親の関わり方も違ってくるのは当然かと思います。大学受験はほとんど本人に任せて良いのです。親が口を出す余地はほとんどないと行っても良いでしょう。高校受験では親は子供に相談されたらそれに応えてやる。本人が望むことを手伝う、軽く手を貸す位で良いのかもしれません。ここで親が主導的な立場になっては子供の主体的な勉強が全くできなくなってしまうからです。そして受験によってもたらされる様々なハードルを自分で越えずに親に越えてもらう羽目になります。これでは一番自立が必要な時期に、一番自立に相応しいチャンスをつぶし、折角の成長の機会を失ってしまいます。後に残るのは本人の徒労感だけです。逆に本人に任せることによって受験生本人が様々な学びを得ることができます。困難に直面した時自分はどう立ち向かっているのか。適当にごまかしてしまうのか、本気で取り組もうとするのか。人の意見を右から左なのか、真剣に受け止めてなんとか自分を変えようとするのか。なかなか報われない努力にも我慢強く立ち向かえるのか。そろそろはっきりしてきた個性に基づいてそれぞれのスタイルで受験に取り組み成長していく。結果的に頭で考えていただけではなかなか見つからなかった「自分とは何か」という、もやもやしていたものの糸口が受験を通して少しずつ見えてきたりするものです。まさにその過程が成長そのものなのだと思います。

これに対して中学受験に親はどう対応すればいいのでしょう。世の中にはこれについて沢山の本が出されています。中学受験生の親御さんの多くは一度はそういう本を手にとっていらっしゃることでしょう。私はこう考えます。先の高校受験が受験生本人の自立の時であるとするならば、中学受験は子供の自立のきっかけを掴むと同時に、敢えて言うなら親として子育てにかける大きなチャンスといえるかもしれません。ご自分のお子さんがどんなタイプの子供なのか。何が得意でどんな可能性を持っているのか。今育てなければならない力はどんなことか。この受験を通じてこの子に何を学ばせるか、何を体得し、どんな方向で成長してほしいのか。そしてそのためにはどういう接し方をすればこの子には効果的なのか。もちろんその方策を実行するのもなかなか簡単なことではありません。初めての挑戦に不安に陥る受験生。毎日毎日の生活を問われる受験生。そんな受験生を観察し、どこまで子育てに子供本人の特性や意向を取り入れているか、どうやって親の思いを伝えるか、まさに子育てのビッグチャンスでもあると思います。このことは日頃の親子の関わりがしっかりしていないとなかなか難しいことです。関わりがしっかりするとは何時も子供と過ごすことではなく、たとえ単身赴任で日頃会えなくても親の思いと子供の思いがすれ違っていないことでもあります。

中学受験は受験生本人の人間的成長もさることながら、親の生き方、家族との関わり方が問われているともいえるでしょう。お父さん、お母さん、塾をとことんご利用下さい。

(代表 林 政夫)