(2009年9月3日発行「FOR THE PEOPLE」)
「FOR THE PEOPLE」 代表 林 政夫
今年も合宿に行ってきました。8月5日から8日までの3泊4日でした。幸いなことに大きなケガや病気もなく全員無事に元気に過ごすことが出来ました。
さて、そんな中今年は合宿中のテーマを定めました。それが「FOR THE PEOPLE 」です。英語が分からない小学生用にと「誰かのために」という副題をつけました。そう、自分のためにではなく誰か他の人のお役に立つことを考えて自分の行動基準を立てる。この考え方を朝起きて、散歩して、食事をして、勉強して、お風呂に入って、そして寝るまでずっとそのことを考えて生活してみてはどうかということです。いざ実行するとなかなか簡単なことではありません。むしろこの話を聞いて教室を出たとたんにそのことを忘れている生徒さんもいたでしょう。それほど他の人の立場になって物事を考え、行動に移すということは難しいことになってきています。
それでも朝自分が使った洗面所の流しの周りが濡れているときは、次に使う人のことを考え備えてある布巾でそれをぬぐい取る。食事の時はセルフサービスではあってもみんなのためにご飯や味噌汁をよそう。食事が終われば自分の食べたところだけでなく同じテーブルあるいはよそのテーブルまでも後片付けをする。風呂に入った後は脱衣室に出てくる前に身体を拭く。後から入ってくる人のためにベタベタしない脱衣室にしておく。部屋に入る際にはみんなのスリッパを揃える。などなど様々な動きが見られました。最後の大きな「FOR THE PEOPLE」はお掃除でした。生徒さんの作文にもありました。本気で便器に手を突っ込んで汚れを落とした後の爽快感は何とも言い難いものです。ぴかぴか光る便器を見て十分な達成感を感じられたのではないかと思います。ほぼ全員の生徒さんがお家でも便器に手を突っ込んでトイレを掃除したことは無かったのではないでしょうか。やらざるを得ない状況とはいえ、自分のためではなく誰かのために汗を流すことの喜びと達成感を少しでも感じてもらえたのではないでしょうか。
なぜこんなテーマを設けたのか。これは青藍学院のというより近頃の子ども達全般を見ていて日頃感じることがあったからです。一言で言うと「他人を感じる力」が足りないのではないかということです。生まれたばかりの赤ちゃんはお腹が空けば泣く。おしっこをすれば泣く。相手のことは全く考えずに自分を訴えます。それが少しずつ成長するにつれて他とのコミニュケイションをとりながら、そこから様々な刺激を受け、教えを受け、自分を成長させる術を学び取っていきます。そして年をとって行くにつれ人との関わりの中に、実は人生のとても大きな喜びがあり、楽しみがあり、生きがいがあり、まさに人生そのものでもあると感じるようになっていくのではないかと思います。それが成長していくということなのではないでしょうか。お年寄りは本当に良く挨拶をします。しかもニコニコと。十分に人との関わりの大切さを身体で感じ取っておられるからでしょう。そういうお年寄りに出会うと心からうれしさがこみ上げてきます。
「幼い」というのはもう他を十分感じ取れる年齢になっても依然としてそれが出来ていないということではないでしょうか。学校でいじめがある時、いじめている方の生徒はいじめられる生徒の思いを全く感じようとしません。また、自分が他の誰かに迷惑をかけたとき、ついつい自分の言い訳が先に立ってしまい、何よりも先に迷惑をかけた相手に謝ろうという姿勢がみられないことがよくあります。いずれも他を感じる力が育っていないのだと思います。ただこれは一概に子ども達を責めるわけにはいきません。他を顧みないいまの大人の社会の一面が反映しているからです。はたして家庭の中に「~さんのために」あるいは「誰かのために」という会話があるでしょうか。ご近所、職場のなどでもそういう会話が少しでも増えてくるといいと思います。
私たちもせめて塾の中ではそんな発想がしきりに飛び交うようにしたいと思っています。人間力のない処では十分な知識や知恵は育ちません。合宿最後の掃除を終えた子ども達の笑顔を見ていると一皮むけた成長を感じます。この秋からの一層の踏ん張りが期待できそうな気がしています。 来る9月11日中井俊巳さんの講演会があります。「他を感じる」ためのたくさんの魔法の言葉が聞けるはずです。