「成長点を探せ!」」(2014年6月16日発行)

小5の理科で「植物のつくりとはたらき」という単元があります。根はどんな働きをするのでしょうか。ご承知のように土の中の水や肥料をからだ全体に送ります。また土の中に広がって土をとらえ地上部をしっかり支えます。さらにサツマイモやニンジンのように養分を蓄える働きもします。では植物にとって最も「根本」となる働きをする根はどうやって成長するのでしょうか。根の先端で細胞の数を増やしているつくりのことを「成長点」と言います。その成長点で数を増やし、増えた細胞それぞれが成長して大きくなることで根は伸びていくのです。
このごろそんな根がしっかり張って水分や肥料をしっかり吸い取って育ち、茎や葉を支える立派な植物ならぬたくましい人間が少なくなりました。根っこがしっかり張っていないひ弱な人々が多くなってきているような気がします。少し極端かもしれませんが、自分では何も決められない人たち。人から言われないかぎり自分からは決して動こうとしない人たち。人と積極的に関わろうとしない人たち。そして人と挨拶できない人たち。どうしたのでしょう。彼らには本来伸びるべくしてあるはずの成長点の細胞がしっかり働いていないからではないでしょうか。
今塾ではドングリの苗木を育てています。ある程度土から芽を出して葉っぱをつけ始めた苗木を一本一本鉢に移しました。水をやり日に当てていたらそのまま育つものと思っていたらそれは間違いだと言うことを教えられました。近所のお花屋さんのご主人から苗木を生長させるためには夜露が必要であると。家の中の温室で育てるのではなく、冷たい夜風や夜露に当てることが丈夫な苗を育てる事を知りました。そういえば以前作家の五木寛之さんの講演会で次のようなことを聞いたことがあります。朝顔は朝日が当たると花が開くと言うことから、ある研究者がつぼみの朝顔に朝日の成分を含んだ光を当てたらいつでも花が開くのではと考え実験をしたのでした。ところがどれだけ照らしても朝顔は花を開かなかったのだそうです。朝顔が花開くためには朝日の前に、夜の暗さや明け方の冷たさが必要だったのだそうです。
近頃のお母さん方の子育てはどちらかというとお子さんに失敗させない子育てをなさっているように思えてなりません。たくさんの時間と手間をかけて世話をすることが愛情の表現であるかのように。でもこれは苗木に夜露や夜の闇や明け方の冷たさを経験させずに太陽だけを当てようとしていることと同じです。考えてみれば転んでみなければそこから立ち上がり方も分かりません。近頃ではともすると「立ち上がる」ということすらわからない子供たちがいます。転べば誰かが起こしてくれるだろう。失敗したら誰かがカバーしてくれるだろうと。これでは丈夫な苗木にはなりません。子供たちはいずれ世の中の荒波に晒されなければなりません。冷たい雨にも夏の日照りにも耐えなければなりません。まさに子育ては風雪に晒されてもしっかり生きていける人間にするためにあるはずです。沢山の失敗とそこから立ち上がる経験こそが子供にとっての風雪であり夜露なのです。
その為には子供の成長に応じて親と子供の関係を少しずつ変化させていかなければなりません。お子さんの欠点や足りないところを直すことが子育てだと思っているお母さんがいらっしゃいます。でもそれはせいぜい小学生の低学年まででしょう。せめて小学校高学年になったら子供にかける手を離していかなければなりません。少なくとも中学生になっているお子さんをとらえてその欠点だけを指摘するのはいかがなものでしょうか。この時期には何を言ってもあまり効果がないことは経験されたお母様には十分ご承知のことと思います。後ろから見守るしかありません。
「それでは放っておけというのか」というご質問が出てきます。いいえ、放っておくのではありません。大切なお仕事があります。子供たちの成長点を探すことです。この子はどこに成長点があるのか。どこを伸ばせばこの子らしさが出てくるのか。何をやっているときが一番活き活きするのか。どんな時、どんなことに一番関心があるのか。沢山の失敗やしくじりを経験させながらもそんな子供の成長点をじっと見つめていくことです。風雪に苦しんでいるときこそお子さんの成長点を見つけて応援することです。大きく成長したいと思っているお子さんと一緒になって、その成長点を見つけ育てることこそがこの年頃のお子さんのあるべき子育てなのではないでしょうか。
(代表 林 政夫)